大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(う)2447号 判決

被告人 秋野栄

〔抄 録〕

弁護人の控訴の趣意第一点について。

所論は要するに原審記録には原審が取調を了したとする所論1乃至9の各書証及び証拠物に付原本は固より謄本すらも添付されていないから右各書証及び証拠物が果して原審公判廷に証拠として顕出せられ、之に付証拠調が行われたものであるかどうかも分らずその意義をも知ることが出来ない。右は刑事訴訟法第三百十条に違反する不法の処置であると主張するものである。

よつて審究するに、証拠調を終つた証拠書類又は証拠物は原本若くは少くともその謄本を裁判所に提出(提出の上は記録に編綴又は領置されることになる)しなければならないことは刑事訴訟法第三百十条の明らかに規定するところであり、これは、若しそうしなかつたならば後に至り、果して如何なる証拠書類又は証拠物が公判廷に提出せられたのか、それらが如何なる意義を有するものであつたのかが不明に帰する虞が存するから、これを防止する為のものであることは論をまたぬ。刑事訴訟法第三百十条が右のような趣旨のものとすれば、たとえ証拠調を終えた証拠書類又は証拠物が、当該事件の記録に編綴せられず又は当該事件には領置されていないときでも、其の証拠がたやすく裁判所に再顯出出来る場合、例えば、当該証拠書類又は証拠物が、裁判所に繋属中の何某事件の記録に編綴されているとか何某事件に付押収されているものであるとかが、公判調書に具体的に明確に記載せられている為、容易にその所在を追求し得る場合(かかる場合と雖、その謄本又は写真を当該記録に編綴するとかの方法をとるよう務むべきは勿論である)は、それで以て、刑事訴訟法第三百十条の法意を充たすものとして取扱い法令の違反を来さないものと解するのを相当とする。

本件に付之を観るに、原判決挙示に係る所論1乃至9の各証拠はその原本又は謄本をも記録に編綴していないことは所論のとおりであるが原審第一回公判調書によれば、検察官は証拠として、原審に撃属中の被告人近郷茂一、同新井忠に対する私文書偽造被告事件記録の顕出を求めた上、其の第二回公判調書記載の各書証並に証拠物の取調を請求した旨記載されているから、検察官が取調を請求した各証拠に従つて又原審第二回及び第七回公判廷に於て、原審裁判所が取調をした各証拠が如何なるものであるかは、夫々その所在について容易に之を知ることが出来る訳である。

而して当裁判所が右に従い所在を追求して法廷に顕出した前記被告人近郷茂一、同新井忠に対する私文書偽造被告事件記録と原審第一回、第二回及び第七回公判調書の記載とを照合すれば、所論1乃至9の各証拠に付夫々その実体を観ることができ、これらに付原審裁判所が夫々適法(尤も、所論1の証第一三号緊急命令書、第一二号契約書、第一四号納入延期承認書に付前掲別件、第二回公判調書には夫々訳文添付の写と記載されて居り従つて原審はこれらの証拠に関してはいずれもその写に付証拠調をしたに過ぎないのに原判決には証拠としてその原本を挙示しており理由にくいちがいが存するが、原審第二回公判調書によれば同公判廷に於て裁判官は証人新井忠に対する尋問中同証人に対し右各原本を示して之を確認せしめていること、そしてそのあと、同公判廷に於て右各写を、証拠とすることに付弁護人の同意を得た上之が証拠調を了した経緯に徴し、右は原本そのものに付証拠調をしたのと同一視すべきものと解するから右の瑕疵はいまだ原判決を破棄するに足りぬ)な証拠調を終えたことが明らかであるから所論は結局採用し難く論旨は理由がない。

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